INTERVIEW

【後編】シンプルだから、ごまかしはきかない「kaeneが紡ぐ"思い"と技術」日永 和孝さん〈株式会社侶丹 代表取締役〉

「一般的なアパレルの会社は海外の工場に製作を依頼することが多いですが、僕たちの強みは国内に自社工場があること。仕様書以上の部分まで共有できるからこそ、どんな繊細なデザインも妥協なく形にすることができるんです」
前編でそう語ったオケージョンドレスブランドkaeneのディレクターを務める日永さんは、熊本にある縫製工場「Factory mode Anna」の代表も務めています。
「もちろん、すべての商品を国内だけで生産しているわけではありません。中国や韓国にも長く付き合いのある優れた工場があり、商品によっては海外で生産することもあります。
ただ、kaeneが大切にしているのは生産地そのものではなく、『誰が作るか』。
Factory mode Annaで培ってきた品質基準やものづくりの考え方を共有できるパートナーとともに、国内外を問わず服づくりを行っています。」
現在、日本で流通する衣料品の多くは海外で生産されている中、kaeneは熊本の自社工場とともに服づくりを続けています。
なぜ自社工場を持ち続けるのか。
人生の大切な節目を彩るドレスが生まれる現場を訪ねました。
くまもんとONE PIECEのキャラクターたち(作者・尾田栄一郎氏が熊本出身)

熊本県熊本市。熊本駅から1駅のところにある無人駅・平成駅のほど近くに、「Factory mode Anna」は静かに佇んでいました。
工場の入り口を入るとすぐ目に飛び込んでくるのは、「美しい服」と書かれた色紙。

たわむ生地を華麗に扱う、職人の業

服作りの土台となる1階は、生地の裁断とプレスのフロア。kaeneの専属パタンナーが引いたパターン(型紙)に合わせ、緻密な裁断作業が行われます。
まずは大きな生地を広げ、ピンと張った状態で同じ大きさに切りそろえる工程から始まります。
そうして切り出された生地を20枚、30枚と分厚く重ねた上にパターンを当て、ここから先は職人の「手作業」によって生地の束を切り抜いていきます。
生地の張り具合や動きを見つめる職人の眼差しは真剣そのもの。
柔らかく、すぐにたわんでしまう生地を何十枚も重ねて、寸分違わずパターン通りに裁断するのは至難の業。
見ていると簡単そうに見えるのですが、長年の経験がなければできない仕事です。
裁断とプレスを担うのは、この道40年のベテラン職人。kaeneというブランドが生まれるよりも前から、この工場で生地と向き合ってきた人物です。

途切れることのないミシンの音。ドレスに命を吹き込む現場へ

縫製が行われる2階のフロアへ足を踏み入れると、所狭しと並ぶミシンの列が目に飛び込んできました。
窓から差し込む柔らかな自然光が、白衣姿の職人たちの手元を優しく照らしています。
JUDY AND MARYの曲が心地よく流れる中、ミシンを踏む音が粛々と響いています。
所狭しと並ぶのは、メーカーも大きさも異なる多種多様なミシン。
1人の職人が工程に合わせて3台を行き来しながら、1着のドレスを仕上げていきます。
印象的だったのは、左手に目打ちを持って作業する職人の姿でした。
細長い錐状の道具の先端を、高速で動くミシン針のすぐきわへと沿わせ、生地を正確に導いていく。
縫う箇所によって、手の動き方もミシンの踏み方も、微妙に変わっていきます。
手元に視線を落とし、前のめりになった背中。職人たちは黙々と手を動かし続けます。
その姿を見ていると、話しかけるのもためらうほどの集中力でした。
平面だった生地が、彼女たちの手元を通して、見る見るうちに立体的なドレスへと姿を変えていきます。
こうして縫い上がったドレスは、最後に1着1着、丁寧にプレスをかけます。
内側から空気が出る専用の機械と、箇所によって使い分けるアイロン台。全体にスチームを当てながら、品質を確かめる職人の目が光ります。
大規模な工場では自動化が当たり前になっています。
その中でkaeneは、多くの工程をこのように職人の手で丁寧に仕上げます。
何人もの手を、厳しい視線を経て、1着のドレスが完成する。
その全工程に、妥協はありません。

シンプルだからこそ、ごまかしがきかない

kaeneが提案する洗練されたシンプルなデザインは、縫製の良し悪しが露骨に表れます。
「ごまかしのきかないシンプルなドレスほど、工場の中でも指折りの熟練工がミシンを踏むんです」
kaeneがあえて独自の道を歩み続けている理由は、縫製工場との圧倒的な「距離の近さ」にあります。
「デザイナーやパタンナーと工場との距離が近いのも、僕たちの強みです。デザイナーの意図を縫製の職人に直接伝えられるだけでなく、職人側から『ここはもっとこうした方がよくなる』など逆提案が来ることもあります」
「工場では、職人同士が言い合いしてる場面も見ます(笑)」
一人ひとりが妥協なくドレスに向き合うからこそ、思いが宿る。その積み重ねが、仕上がりにも違いを出す。職人たちを見ながら、そう実感していました。 

未来へ続いていく、ものづくりを

地方の工場では職人の高齢化が深刻で、このままでは高度な技術が途絶えてしまいかねない状況です。
だからこそ日永さんは、自社工場を持ち続けること、そして国内の縫製技術を次の世代へ繋ぐことを大切にしています。
「『Made in Japan』だから良い、という幻想を売りたいわけじゃありません。海外にも素晴らしい工場はたくさんあります。
ただ、細かい言葉のニュアンスや、こだわりを言語の壁なくダイレクトに共有できる環境を大切にしたいんです」
この場所で積み上げられてきたものを、途絶えさせない。
その決意は、次世代の育成という形でも動き始めています。

技術を、次の世代へ 

ブランドを支えるクリエイターを自社で抱え、工場とともに歩む日永さんに、今見据えている10年後の未来について尋ねました。
「1番は、会社が残ってくれていること。
そしてもう1つは、皇族の方々が着用されるようなレベルの品質を持つ服を作れるようになることです。品質や技術を極め、日本一の縫製工場を目指すなら、そこが分かりやすい目標だと思っています」
「作り手の技術やこだわりは、洋服に表れると思っています。
そんな服を着て、ひとりでも多くの方に少しだけ自信を持ってもらえたら嬉しいですね」
福岡と熊本。
二つの拠点での服づくりは、これからも変わらず続いていきます。

7 FACTORS -日永さんを構成するもの7つ-

1.マイブームは? 

読書・サーフィン・筋トレ

2.モチベーションや気分をあげてくれるもの・ことは?

息子たちと遊ぶこと。最近は一緒にスケボーをしてます。
あとは、HANAが好きでファンクラブにも入ってます。
世間から遅れて「No No Girls」を見て、まんまとどハマりしました。

3.好きな場所は?

海、家、酒場
最近は1人飲みが更に増えました。
サーフィンは1人でできるのも好きな理由の一つです。

4.習慣になっていることは?

トイレ・玄関掃除、筋トレ

5.いつも身につけている(携帯している)ものは?

ハンカチを忘れたら確実に不安になります。
忘れたら取りに家に帰るか、買います絶対に。

6.よく見返す写真は?

息子たちですね。見返してずっとニヤニヤしてます。
長男9歳、次男6歳。長男は繊細なところが、次男はひょうきんなところが僕と似ています。

7.大切にしている言葉は?

バッドブレインズというバンドが好きで、彼らの歌詞に出てくる
I&I survived(俺たちは苦難を乗り越えて生き抜いた)
Positive Mental Attitude(肯定的精神姿勢)

という言葉たちに、苦しい時はかなり救われていました。

番外:MBTIは? 

運動家です。
毎回忘れちゃって5、6回ほどしました。
日永さんを構成する本棚の精鋭たち

PROFILE

日永 和孝(ひなが かずたか)

株式会社侶丹 代表取締役

日永 和孝(ひなが かずたか)

1980年3月8日生まれ。 株式会社 侶丹 代表取締役/kaene ディレクター /有限会社factory mode Anna代表 趣味はサーフィン、ピラティス、筋トレ、読書。息子ふたりのパパ。アーティスト「HANA」のファンクラブ「HONEYs」会員。


取材・編集:永延 真優(プラドレ) / 写真:SOTA(Underdog Graphics)

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